Philosophy

私は気に入ったものを何度も見直すことが多いです
映画・小説・漫画やゲームもそう

この作品は公開後まもなく、
それもひとりで映画館へ行った初めての映画です
後にテレビでも放送されたりして
何度か見ているのですが・・・

突然、また見たくなったんです
買ってしまいましたょDVD(^^;)
やはり、テレビの吹き替え版ではなく
字幕で見るのがいいんです、こういう良作は

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今回の作品は
「The World’s Fastest Indian(邦題:世界最速のインディアン)」

比較的最近のものですし
人気の高かった作品ですので
ご存知の方も多いと思います

ちなみに、誰かにこの作品について聞かれたときには
「ネイティヴ・アメリカンの部族の青年が
人種差別による世間の理不尽にも負けずに
世界陸上で金メダルを獲るまでを描いた物語だよ」
と、嘘を教えることにしています(笑)

冗談はさておいて、
この作品は、「ハーバート・ジェームス・マンロー」
という実在の人物の偉業を描いたものです

それまで、私の見る映画といえば
銃弾が飛び交ったり、車がひっくり返ったりするものがほとんどで
こういう旧き良き時代を描いたロードムービーはこれが初めてでした

物語は、全編を通して穏やかに流れていきます
中には「登場人物がみんないい人過ぎる」という意見もあるようですが
それこそが彼の人間味と世界観とをあらわしているように思えました

彼「バート」は、米国的迷惑な隣人といった面もありながら
基本いいひと、倹約家であり老いてなお熱い情熱を持ち続けている
スピードとバイクを何よりも愛し、夢をかなえるために
67歳にして、全財産をはたいて海を渡り、地球の裏側にある聖地
ボンネヴィル・ソルトフラッツ(字幕ではボンヌビル)を目指して旅に出ます

旅の途中で色々なトラブルが起こるのですが
その持ち前のポジティブさとチャーミングさ、身に付けた技術などで
万事問題なく解決していくこととなります

彼は基本、人間が大好きなんでしょうね
人間を怖がらない、人間が大好きというのは
生きていくうえで最強だと思います
例え見知らぬ土地に放り出されようと
そこに誰か人がいるなら全然問題ないのです
人種や性別、話す言葉や考え方が違おうとも
何も恐れることがない

そんな彼だからこそ
周りの人は彼に心を開き応援し
心から愛することができるのでしょう

私とは反対の彼を
とてもうらやましく、また憧れもしたものでした
8年ぶりに見た今、また改めてそう思いました

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この作品出でてくる人たちは
どれも魅力的なのですが
個人的にはティナという女の子(敢えて女の子と呼びます)が印象的です
アメリカにわたったばかりのバートの内面を
一番最初に理解した人であり
彼もまた旅立ちの前に彼女に素直な気持ちを伝えています

彼の身近な隣人であるトムとその母親のサラの関係も
味わい深いものがありました
トムにとってバートは歳の離れた優しい友達
そのバートの元に入り浸っている息子を見守っているサラは
正直迷惑ではあったのでしょうが、
同時に彼らをうらやましくも思っていたことも感じられます
贔屓目に見ても、バートは「困った隣人」であるのですが
拒絶するのではなく、むしろ容認しているようであり
このあたりの懐の深さは、旧き良き時代のそれであると同時に
とても「米国的」なおおらかさだなぁと思います
現代の、それも日本では一発で訴訟ものですからね(^^;)

旅立ちの朝には
思わずぐっとくるシーンがありました
(いいシーンなので説明は割愛、ぜひ映画でご覧を)
彼は若き魂にこそ真のシンパシーを与えるのでしょうね

そういえば、「記録を破れると思うか?」という問いに対して
それぞれが違う答えをします

バート自身は「そう願っている」と言い
トムは
「パパは、無理だろうって。みんなもそう言ってる、ぼく以外は」
恋人?のフランは、彼が無事に戻ってくることだけを望んで
「結果はどっちでもいい」
そして、族のリーダーは「勝てるさ」と

浪漫に対するそれぞれのスタンスが滲み出ていますね

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映画の批評の中には
駄作・失敗作と斬って捨てられるものもあります

この映画でのメイキングインタビューでも少し語られていますが
映画の製作サイド(特に監督など)というものは
建前で言っているのとは違い、苦難の連続でとても大変なのだと

癖のある俳優達を御し、多くのスタッフと折衝し
時間と予算に追われ、その上で興行成績までとなると
ほとんど不可能にさえ思えてきます

私の感覚では、製作が始まるまでがハイライトで
そこからはひたすら調整に終始して
とにかく完成まで何とか持っていければ御の字
失敗作と呼ばれるものでも、例外なくその苦難を乗り越えているはずです

傑作と呼ばれるものは
そうした中で本当に選ばれた者のみがたどり着ける
かけがえのないものなのだと思います

名優、アンソニー・ホプキンス
監督・脚本、ロジャー・ドナルドソン
この映画は、誇張抜きで楽しい製作だったと
彼らはそう言っています

この映画を見たのは
50人も入れば一杯になる小さな映画館でしたが
平日ということもあって私のほかには観客は5人ほど
その中で、私の2列ほど前に座った父娘がいました
親子で見に来る映画としては粋な選択だなと
我が事のようにうれしくなったものでした

久しぶりにこの作品を見て
夢を追うこと、生きること
新たな意欲を注ぎ込まれました

2 人のご厚意をいただきました